嘘を吐く貴方にさよならを
「ん? 足、痛いのか?」

「っ! 大丈夫です!」

 彼女は反射的にそう返した。
 焦ったような顔を浮かべている彼女を見た彼は、少し考えた後、口角を上げ顔を覗き込む。

「なぁ、お前の名前を教えてくれ」

「はぃ??」

 先程から優輝が何を考えているのかわからず、困惑。
 眉を顰め、口をパクパクと金魚のように動かした。

 聞きたい事、言いたい事があり過ぎて、逆に言葉が出ない。

「おい、名前」

「え、あ。私は蝶赤一華(ちょうせきいちか)……ですが…………」

 優輝の圧に負け、一華は素直に名前を伝えた。

「一華、一華か。わかった。あんがとな」

 礼を言うと、やっと一華から手を離し、優輝は距離を取った。

 やっと解放された一華は安堵の息を吐き、胸をなでおろす。

 早くこの場から去ろうと地面に置かれていたシャベルと、落としてしまったじょうろを拾おうと手を伸ばした。
 だが、一華より隣から伸びてきた手の方が早くじょうろを拾う。
< 3 / 15 >

この作品をシェア

pagetop