制服レモネード
「矢吹さんって、ほんとずるいですね」

「……え、なにが」

「簡単に人の気持ち、上げたり下げたり……」

私の気持ちを知っているにもかかわらず、突き放したり喜ばせたり。

矢吹さんといると常に心臓も頭の中も忙しい。

「それはこっちのセリフなんだけどな」

「え〜嘘だ」

私のセリフの一つや二つで、矢吹さんの心は絶対揺さぶられていない。

だから、私に触れても平気な顔していられるんだ。

「梓葉」

隣から名前を呼ばれ、無意識に下がって顔を上げて横に顔を向ける。

──カシャ

へ?

目の前には、矢吹さんのスマホのカメラがこちらを向いている。そして、さっきのシャッター音。

「すごいふくれっ面してたから、可愛く加工したよ」

矢吹さん可笑しそうにそういうと、画面を私の方へと見せた。

少しだけ唇がとんがってる私の顔に、猫の耳とヒゲが付いている。

「ちょ、撮ったんですか?!」

「傑作」

「消してください!」

そんな、そんなの勘弁してほしい。

好きな人のカメラロールに、あんな不貞腐れ顔が残るなんて。いくら加工されてるとはいえ、こんな表情恥ずかしすぎる。

「大丈夫。他人に見せたりしないし」

「そーいう問題じゃなくて!」

矢吹さんに見られるのが一番困るんです!!

「そう簡単に取られないって」

そういう矢吹さんはスマホを持つ手を高く上げて得意げに笑う。
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