制服レモネード
「あ、そうそう」

ソファに座ってくつろいでいた矢吹さんが思い出したように立ち上がって、テレビ横の棚を開けた。

「どれがいい、梓葉」

振り返った矢吹さんが得意げな顔をしてそう聞いてくるので、私は手に持ってたマグカップをローテーブルに置いて、彼の方へ向かう。

「わ!すごい!ぎっしり!」

矢吹さんが覗いていた棚の中を同じように覗くと、そこには、今日車の中で聞いたあのバンドのCDが綺麗に並べられていた。

「最近出す曲は今の学生にも人気あるみたいだから、そっちから聴くのもいいと思うけど……」

「や、矢吹さんの、お、おすすめは……」

矢吹さんの好きなことがもっと知りたい。

一瞬驚いた顔をしたけど、矢吹さんはすぐに優しく微笑んでから、1枚のCDを取り出した。

「これかな。最初と最後の曲がね、すっごい好き」


『すっごい好き』って、私の顔を見ながらいうのはあまりにもずるすぎると思う。


勝手にドキンとしてしまったけど、嬉しそうに曲の話をするこの空気を壊したくない私は、矢吹さんの曲の説明に神経を集中させる。

「最初の曲は、俺が実家から出るときにずっと聴いてた曲で。無理して前を向かなくてもいいやって思えた曲なんだけど、今聴いたら、また違う角度から色々と感じられて、いいんだよね。それから、最後の曲は……梓葉が聴いたら、感想教えて」

「えっ、私の感想?」

「うん」

感想って……。

まるで次に会う時はその話をしようって。
またこの部屋に来てもいい口実ができて、
また矢吹さんとの次があるみたいな。
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