制服レモネード
「岡部さん」

「は、いっ」

突然、名前を呼ばれてびっくりして、声が大きくなってしまった。

「下の名前、なんていうの」

「えっ……」

「ほら、苗字だとご両親と一緒になるから」

と付け加えた矢吹さんに納得する。

「えっと、梓葉です。梓の葉って書いてあずはです」

まさか、下の名前を聞かれるなんて思ってもなかったから、さらに動揺してつい早口になってしまう。

心の中で、矢吹さんのこと、だらしないとかなんとか勝手に言っていたけれど、いざこうして目の前にして話すとなると、綺麗な顔立ちに、大人の色気が全身から滲み出ていて、緊張に緊張が重なってうまく話せない。

「へ〜いい名前だ」

優しくそう言って微笑んだ矢吹さんの横顔。

すごく綺麗だけど、今まで一緒にいた女性たちの数がチラついて『本心かわかんない』なんて心がざわつく。

「……彼女さん、ですか?昨日の」

自分から深くは話さないってことは、あまり聞かれたくないことだろうけど、

こっちはそれなりに被害に遭ったんだから、少しくらい事情を聴いてもバチは当たらない気がした。

「んー、そんな感じ」

「っ、そう、ですか」

『そうだよ』と嘘はつかなかったけど、完全に濁された。やっぱりあんまり話したくないんだ。

「梓葉は?彼氏。いるでしょう」

「梓葉」いきなりの呼び捨てに、思わず勢いよく顔を上げてしまった。ほんと軽いっていうかなんていうか。しかも『いるでしょう』って、前提みたいに……。

「いないですよ」

「え〜そうなんだ。モテそうだからいるかと。あ、家は?お父さんとお母さん、仕事?」

本当に思ってるのか思ってないのかわからないことをサラッと言う人だ。

やっぱり少し苦手かも。
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