制服レモネード
「レモネード、ホットも美味しかったです。ごちそうさまでした!じゃ、また今度!」

明るくそう言ったあと、あんまり寂しくて、なんだか鼻の奥がツンとして、とっさに矢吹さんから目をそらす。

早く帰らなきゃ、矢吹さんだってきっと休みたいんだから。

私のお団子頭のすぐ横にあった矢吹さんの手がスルリと離れてから、玄関に続く廊下へとつま先を向けた瞬間。

ギュッ

へ?

後ろから、今日車の中で借りたジャケットと同じ香りがフワッと香った。

そして、暖かいものに包まれた感触と顔のすぐ真下にある、腕。

これは……一体……。
自分の今の状況の理解に苦しむ。

この家には今、たしかに矢吹さんと私しかいないはずで……。

えっと、だから……。

「行かないで、梓葉」

っ?!

後ろから、曇ったそんな声が聞こえた。
大好きな大好きな彼の声。
でも、今まで聞いたことのない、苦しそうな声。

「や、矢吹さん?」

「……もう限界」

なんの話をしているのか、どうして矢吹さんが私のことを抱きしめているのか、

今まで経験したことない、学校では教えられないこと。

何がなんだかわからなくて、緊張で考える頭がフリーズする。

「責任、とってよ」

いつか言われたセリフ。

あっ、そうだ。

矢吹さんが酔って帰ってきて、いつもみたいにキスができなかった、なんて言ったあの日だ。

矢吹さんに肩を捕まれて、クルッと身体の向きを変えられて、目の前には矢吹さんの胸。

ゆっくりと顔を上げる。
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