制服レモネード
それから、マンションに着くまでの間、私の家庭事情を簡単に矢吹さんに説明したりして、

部屋のドアの前に来てから、矢吹さんから買い物袋を受け取った。

「助かりました。ありがとうございました」

ペコッと矢吹さんに頭を下げて、家の鍵を開けようと鍵を鞄から取り出した瞬間、

「梓葉、今から時間ある?」

そんな声が、聞こえてきた。

「えっ」

びっくりして、ドアの方に向いていた体を、再び矢吹さんに向ける。

「よかったら、うちに寄らない?」

矢吹さんが涼しい顔で私に向かってそういっている。今日初めてちゃんと話しただけなのに。

これって……。
つまりはそういうこと、だよね?

「あっ、いや……」

「あぁ、安心して子供には何もしないから。お詫び、今のだけじゃ足りないから」

『子供』その、セリフに少しイラッとしつつも、言われるがまま矢吹さんの部屋へとお邪魔する。

ちゃんと子供だと割り切って接してくれてることはありがたいことなのに。

女遊びが激しいことだって大人のすることじゃないのに、そんな彼に子供扱いされたのが気に入らなかった。

モノトーンで統一された家具に、物の少ないすっきりとした部屋。

うちより少し小さめの間取りだけど、物が少ない分広く見える。

座るよう促されたカウンターチェアーに腰掛けてから、部屋をざっと見渡す。

「綺麗にしてますね」

「まぁ、土日しか基本家にいないしね。休日も大抵寝てるだけだし」

『寝てるっていったいどっちの意味ですか』なんて頭によぎった自分を恥ずかしくなる。

「はい、どうぞ」

「っ、」

キッチンに立って、私への『お詫び』として何やら作っていた矢吹さんが、グラスに入った飲み物をコースターと一緒に私の前へと置いた。
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