制服レモネード
「ありがとうございますっ!嬉しいっ!」
「ん。さっ、食べよ食べよ」
「はい。いただきます!」
矢吹さんが切り分けたシフォンケーキをパクっと口に入れる。
いちごの甘さと香りが広がって、シフォンケーキのフワッフワの生地が絶妙。
「すっっごい美味しいです!こんなふわふわなシフォンケーキ食べたことない!」
「ほんと、すげーふわっふわっ。喜んでくれてよかった。梓葉、最近学校どう?」
矢吹さんにそう言われて、頭にすぐ浮かんできたのは、ファッションショーのこと。
「あっ、実は──」
ブーブーブーブー
「あっ、」
私が口を開いたと同時に、テーブルに置いていた矢吹さんのスマホが光りだした。
「ごめん、梓葉。上司からだ。ケーキ食べてて」
「あ、はい」
慌ててスマホを耳に当てて、奥の寝室の方へと姿を消す矢吹さん。
ほんと、忙しいなぁ。
矢吹さんが高校生なら一緒に共通の話題ができたり、私が矢吹さんと同じ職場に働いていたらそれこそもっと一緒に悩んだり、仕事の大変さも理解できるのに。
私を喜ばせるために買ってきてくれたケーキ、すごく嬉しいけど、無理させたんじゃないか、なんてよぎってしまって。
「梓葉、ごめん!これから会社行かなきゃならなくなった」
慌てて奥から出てきた矢吹さんがそう言った。
「えっ、今からですか?」
「あぁ、明日使う資料に誤りがあったのがわかって、変更点が色々と出てきてしまって……」
「わかりました。行ってきてください!」
「あぁ、スペアの鍵がテレビ横の棚に入ってるから頼んだよ」
慌てて上着を着た矢吹さんは、そう言って急いで部屋を出て行った。