制服レモネード
「彼女、じゃないよ」

矢吹さんが突然、声のトーンを低くして、か細い声で呟く。

「へっ?」

「この間、間違えて、梓葉んちに行った女の人」

「あぁ、ですよね……」

あの人だけじゃなくて、色んな人がこの部屋に来ていて過ごしているんだ。

「気付いてるよね、毎回来る女の人が違うこと」

「はい。まぁ、矢吹さんの事情もあると思うので……私には全然、そういう気持ちわからないですけど」

私がそういうと「まぁ、子供にはわからないよね」と言って、自分用に作ったレモネードを一口飲んだ。

なんだそれ。
また子供扱いだ。

「私、子供ですけど。そういう世界とか感情とかわからないですけど、人の気持ち弄んじゃいけないのは子供も大人も同じだっていうのはわかりますよ」

ショックだった。

瓶に入ったレモンシロップを見つめた彼はあんなに優しい顔をしていたのに。

そんな顔できる人が、平気で色んな女の子に触れて、そういうことができるんだって。

今まで抱いていた勝手に抱いていた大人への理想が、矢吹さんのような人に、いとも簡単に裏切られて。

「それじゃまるで、俺があの人たちの気持ち弄んでるみたいな言い方」

「何も知らないのに偉そうだね」なんて付け加えて、カウンターキッチンに手を置いたまま目をそらす矢吹さん。
< 14 / 227 >

この作品をシェア

pagetop