制服レモネード

それからショーは順調に進んでいき、私と龍ヶ崎くんは2着目も無事にランウェイを歩くことができた。

私が見たと思ったあのスーツ姿は、2着目の時は姿が見えなくなっていた。

多分、あれは自分の幻覚だったんだ。あんまり矢吹さんを思いすぎるあまり、幻覚まで見るなんて。

重病過ぎるよ。

「ラストは満を持してのウェディングドレス!今日最後のランウェイ、楽しんできて梓葉ちゃん!」

「……はい!」

そうだ。今日は悩まない。ショーに集中するんだ。

服飾部のみんなの青春に混ぜてもらったことに感謝の気持ちで、歩くんだ。

みんなのためにも、形に残る思い出を、賞を取るために。

純白の真っ白のベルラインのドレス。

ボリュームのあるスカートのふわっとしたシルエットは、まるで自分がこの世界で一番のお姫様なんじゃないかと錯覚してしまいそうになるほど。

スカートのレースには細かく刺繍が施されていて、これが全部服飾部の手作業で作り上げたものだと思うと、改めて胸がぎゅっとなる。

花冠ベールからメイク、ドレス、上から下までを最後に鏡で確認して。

正直、この格好だけは、矢吹さんに見てもらいたかったかもって。一体どんなを顔してみてくれたかなんて。
どんなに考えないでおこうとしても、頭の中はいつだって矢吹さんで。

初めて入れてくれた一杯のレモネードの味だって、まだちゃんと覚えている。
お土産でもらったクマの瓶に入った黄色の金平糖も。
車の中で食べたアイスも。
会社に持って行ってくれたマグカップだって。

私はいつだって矢吹さんで、余裕がないのに。

矢吹さんは、今、誰といて、誰を見てるんだろう。

付き合っているはずなのに、近づいたと思っていた距離はすぐに離れてて。

「はい、もうすぐスタートよ────」

鈴木先輩の声も遠くの方に聞こえるよう。

もう限界だよ。

矢吹さんに会いたい───。
< 149 / 227 >

この作品をシェア

pagetop