制服レモネード
『外の自販機の近く』
大好きな彼が、私に会いに来てくれた。
ずっと不安で押しつぶされそうだったけれど、もうそれだけで十分。
どうして矢吹さんがここにいるのか、そんなこと今は考えられなくて。
会場を出て、裏の方から、会場外の前方にある自販機コーナへと早足で向かう。
数日ぶりの矢吹さんはさっき舞台上から見ても安定してカッコよかった。
会ったらまず、なんて声をかけよう───。
「あれ?授久くんも来てたの?」
え。
すぐそこに矢吹さんが待ってるはずだったのに。
なにやら女性の声が矢吹さんの下の名前を呼んでいるのが聞こえた。
どういうこと?
思わずいくつか並ぶ自販機の後ろで立ち止まる。
「夏穂……なんで……」
大好きな人の声を久しぶりに聴けたのに、その声は、私じゃない別の誰かの名前を呼んでいる。
しかも、下の名前。
どうしよう……怖くて足が動かない。
2人に顔を出して、一体どんな顔をしたらいいんだろう。
でも……。
私は矢吹さんにちゃんと呼び出されたんだ。
だったら───。
「矢吹さんっ!!」
勇気を出して、今出せる1番の声で、大好きな人の名前を呼んで、飛び出した。