制服レモネード
「よし。矢吹くん、下の名前は」
パパはそういいながら、ママが冷蔵庫から出してきた缶ビールを受け取って、矢吹さんのコップへと注ぐ。
上機嫌だパパ。
「授久です。授かるに、久しいって書きます」
「へ〜綺麗な名前だ。やぶ……いや、授久くんのご両親こそ、君のことすごく大事に思ってつけた名前なんだとわかるよ」
パパがビールを一口飲んでそういうと、矢吹さんは遠慮がちに笑ってから「どうでしょうかね」と答えた。
そういえば、矢吹さんのご両親のこと、聞いたことないかも。
レモネードシロップの入った瓶のことなら、おばあちゃんの形見だって言っていたっけ。
「それで、ふたりが付き合ったきっかけって?」
夕飯の準備が整って、全員揃って「いただきます」と声を出してすぐ、ママが食事を取り分けながらそう聞いた。
「レモネード……矢吹さんの作る、レモネードがすっごくすっごく美味しくって。作ってる間の顔も、とっても優しくって……あ、矢吹さん!もし大丈夫だったら、あとでママとパパにも、作ってくれないですか?矢吹さんのレモネード!」
「ああ、いいけど……いいの?ほんとただのレモネードだよ?」
「ううん!矢吹さんの作るレモネードがいいの!」
「あの、ごめんなさい、授久くんの作るレモネードって?」
勝手に盛り上がってしまっていた私に、ママの声が被さる。
あ、そうだ。
どうして私が矢吹さんのレモネードを飲むことになったのか、ママたちはもちろん知らないよね。
私は、矢吹さんの知り合いが矢吹さんのうちと間違えて私の家にやってきたあの日の話を懐かしく感じながら説明した。