制服レモネード

授久side

『大人になったら、父さんのような大人になるんだ』

中学2年の頃までの俺は、そう思うことが一番正しいんだと疑っていなかった。

『授久、父さんの実家を、お前もいずれは継いで欲しい』

そう言われるまでは。

もともと大手企業で働いていた俺の父親は、転勤の多い人で。

2年おきに転校するのが、当たり前だった。

それでも、仕事ができて仲間から慕われていたり、親戚に会うたびに向けられる父親への尊敬の眼差しは、

幼かった俺なりに、こういう大人になることが自分の目標とすることなんだと思わせた。

実際、父親にも、

『授久は、友達を作ることよりもたくさん勉強をして父さんのようにいい大学を出て、いい会社に入るんだ』

なんて、何度も言われていた。

まぁ、転校ばっかの俺に友達なんてできた試しなんてなくて、俺にとっても、勉強だけが、自分の出来る唯一のことだった。

けど、中3の春。

衝撃なことを告げられた。

『父さんな、おじいちゃんの養蜂場を継ぐことにした』

世でいう、脱サラというやつだ。

父方の祖父母が、養蜂業を営んでいたのは知っていた。

それこそ、遊びに行けば、祖母がよく、自家製の蜂蜜でレモネードを作ってくれたものだ。

でも、父親が、家庭を顧みず、養蜂にばかり全てを費やしてきた祖父を見て『ああは絶対になりたくない』と呟いていたのを聞いていた俺は、

そんな自分の父親が、今まで会社で築き上げてきたものを全て捨てて、祖父の仕事を継ぐと聞かされた時は、裏切られた気持ちでいっぱいだった。
< 189 / 227 >

この作品をシェア

pagetop