制服レモネード
「忙しいんだ。用があるなら手短に」

「……っ、」

矢吹さんにすごくトゲのある言い方をするおとうさんに、私まで、うっ、と唾を飲み込んだ。

「……ちゃんと、向き合わないとって思ったから」

そう呟いた矢吹さんは、今まで見てきた矢吹さんよりも、ずっと幼く見えた。

一瞬、隣にいる人が、学生服をきた高校生に見えた気がするぐらい。

おとうさんと向かい合う矢吹さんは、小さく見えた。

「『あんたたちの息子でいるのはごめんだ』そう言って出て行ったのはお前のほうだろ」

矢吹さんのことを名前で呼ばないおとうさんに、ギュッと胸が締め付けられる。

矢吹さんから、家族の話、矢吹さんの子供の頃の話、聞いてはいたけれど、思ったよりも、壮絶だったのかも。

「あぁ、確かに。あの時は、父さんに裏切られたって気持ちが大きくて、感情的になって、正直、働き出してもその気持ちは変わらなかったよ。俺の今までの頑張りはなんだったんだろうって」

「……」

顔を縁側の方へ向けたまま無言で腕を組むおとうさん。

「でも……梓葉と出会って変わった。確かに、父さんの突然の路線変更に戸惑ったしショックだったし、ずっと引きずってた。でも、2人からもらったのはそんな悲しかったことだけじゃなかったはずだって、思えた」

「授久……」

震えた声で、おかあさんが彼の名前を呼ぶ。
< 199 / 227 >

この作品をシェア

pagetop