制服レモネード
「ちゃんと、覚えてるんだよ。向き合おうとしなかっただけで。転校ばっかで友達がいなかった俺と、休みの日は出来るだけ遊びに連れて行ってくれてたことも、必ず学校のイベントには足を運んでくれてたことも、母さんが、ご飯は絶対、毎日手作りを頑張ってたことも、本当は、ちゃんと……思い出せる」

矢吹さんが、ポツリポツリと話し出して、私の目からは自然と涙が溢れてくる。

目の前に座る矢吹さんのおかあさんも、手で顔を覆っている。

そして、矢吹さんのおとうさんがやっと、縁側を見みていた顔を動かして下に向けた。

「教えてくれたのは、梓葉だった。梓葉も、家族が忙しくてずっと寂しかったはずなのに、俺に言ったんだよ。『愛されてる実感がちゃんとあるから』って。彼女は、ちゃんと向き合って、愛情を見つける努力をする子で。俺の学生時代とは大違いだって……」

「学生、時代?……君、今いくつなんだ」

矢吹さんの最後のセリフを、おとうさんは聞き逃さなかった。

「あっ、えっ、と……」

思わず矢吹さんを見て助けを求めると、矢吹さんは私のことを優しく見つめて、コクンと頷いた。

「えっと……17、ですっ」

「えっ?!こ、高校生?!」

私の年齢を聞いて、おとうさんよりも先に、おかあさんの方が驚いてそう聞いた。

「はい。矢吹さんとは、マンションが隣同士で。本当にお世話になっていまして……」

「親御さんには、こいつとのこと話しているのか。ほんっと……お前ってやつは……」

矢吹さんのおとうさんが、初めて私の顔を見て慌てた様子でいうと、今度は矢吹さんを見て呆れたように声を漏らした。
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