制服レモネード
「……蜂蜜?」

おかあさんの問いかけに、コクンと頷く。

立ち上がったまま、こちらを振り返らずに立ち止まっているおとうさんの背中に向かって、再び声を出す。

「初めて矢吹さんと話した日、私にレモネード作ってくれたんです。作り方も教えてくれて。作ってる時の矢吹さんの顔、すんごく優しくて。彼を育てたご両親ってどんな人だろうって、きっといい人たちなんだろうって思いました」

「……梓葉、」

矢吹さんは、私の手を握って、『無理に話さなくていいよ』って顔を見せたけど、止められない。

『大丈夫だから言わせて』という言葉の代わりに、矢吹さんにキュッと唇を結んだ笑顔を見せる。

「矢吹さん、ずっとずっと、ここの、おとうさんの作っている蜂蜜、こっそり注文して、使ってるんですよ!」

私がそう言った時、おとうさんの肩が少しピクッと動いた気がした。

「ちょ、梓葉それは言わなくて……」

慌ててそういう矢吹さんの耳がほんのり赤くなっていて、照れているのがわかる。

私が言わなきゃ、きっと矢吹さんは絶対、こんなことおとうさん本人に言わないだろう。

「言わないとだめだよ!本当に思ってること!突然進路が変わって戸惑って嫌な思いしたことだって本当かもしれない!だけど、矢吹さんにとって、それだけが本当じゃないでしょ?おとうさんの今の仕事、どう思ってるの?」

おとうさんの今している仕事だって、矢吹さんにとってはもう、同じように大切なものになっている。

だから……。

「お父さん、ほら、こっち向いて、ちゃんと授久の話し聞きましょう」

おかあさんが、こちらに背中を見せたままのおとうさんに声をかけた。
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