制服レモネード
「じゃあ、俺たちそろそろ……」

私とおかあさんが2人で食器洗いを終えた時、矢吹さんが立ち上がりながらそう言った。

楽しい時間は、本当にあっという間。
少し寂しい気持ちになる。

いや、きっと矢吹さんと2人きりで帰る車の中だった楽しいけど。

「あら、泊まっていけばいいのに」

おかあさんのその声に、私と矢吹さんは同時に目を大きく開く。

「ね、お父さん。いいわよね?」

おかあさんが、まだお酒を飲んでいるおとうさんにそう聞くと「好きにすれば良い」という言葉だけが返ってきた。

「あ、2人に明日早く予定がなければだけれど」

とおかあさん。

「いやでも……」

矢吹さんがそう声を小さくする理由もなんとなくわかる。私たち、お泊まりなんてしたことないんだもん。彼の実家で始めて一緒に夜を明かすなんて、ちょっと緊張だ。

「梓葉さんは二階で私と寝るのよ?」

え?

おかあさんのセリフに思わず顔を上げる。

「え、なにそれ」

と矢吹さんも私と同様の反応。

「当たり前でしょ〜?梓葉さんはまだ学生さんだし。なーに期待してたのよ。授久はお父さんと下で寝るの、いいでしょ?」

そう言われて不服そうな矢吹さんは少し黙り込む。

「あっ、いいですね!賛成です!矢吹さん、泊まっていってもいい?」

黙る矢吹さんの代わりにそう声を出して。矢吹さんに再度確認すると、

「……梓葉がいいなら」

と返ってきて、私たちは、ここに一晩お世話になることになった。

「楽しみね〜!」

と笑いかけるおかあさんに私も自然と顔が緩む。

彼のお母さんと、2人きり。

そんなことにドキドキしながら、私たちは居間を後にした。
< 207 / 227 >

この作品をシェア

pagetop