制服レモネード
ピンポーン
もう、これでチャイムを鳴らすのは4回目。
やっぱり、まだ帰ってきていないか。
夕食を急いで食べ終わり、食器を片付けて、歯を磨いて。いつもの部屋着から、まだ人に見られて大丈夫な格好に着替えて。
矢吹さんの家の前で突っ立って、5分くらいが経過したと思われる。
いや、そりゃそうだよね。
お互いの家は、たった数メートルの近い距離なのに、私は矢吹さんの仕事がいつ終わるのかとか何にも知らない。
ただのご近所さんなんだから知らないのは知らないで当たり前なんだけど。
でも……。
コツンコツン
あっ、帰ってきた!
階段下から歩いてくる音がして、慌てて自分の玄関に戻ってドアを閉める。
矢吹さんが部屋に入ったら改めて、チャイムを鳴らそう。
「絶対、矢吹くんの方がかっこいいって〜」
「いや、そんなことないよ」
っ?!
ドア越しから聞こえる、男女の話し声。
あぁ、バカだ。私ったら。
バタンと、ドアの閉まる音がする。
話しかけるんだって気持ちが先立って、矢吹さんがこうやって女の人と帰ってくることがしょっちゅうなの、すっかり忘れてた。
そもそも、私が矢吹さんと話せたのって、矢吹さんが話しかけてくれたからで……自分からきっかけを作るなんて難しくない?
相手は、日中忙しく働いてる会社員で、しかも夜や休日は決まって女の人がいるって。
頑張るって言ったけど、がむしゃらに勢いで話しかけに行くのは違う気がするし。
「ん〜」
ドアの覗き穴を確認しては、ドアにもたれかかってため息をつく。