制服レモネード
「何の用」
「えっ、」
まるで、さっきのことは何もなかったみたいに平然と話せる矢吹さんに、呆気にとられる。
「何か用があるから、わざわざ盗み聞きしてたんじゃないの」
「だからそんなこと……してないです」
帰ってくるのをずっと待っていた。
女の人との楽しそうな声が聞こえてモヤモヤした。
そんなこと言ったら、また子供だってバカにされる。
冗談って、一体どこまでが冗談なのか。
私のせいで、あの人にキスできなかったって、どういうことなのか。
聞きたいことは山ほどあるのに、しつこいと思われたくなくて、全部を飲み込む。
「あっ、えっと、レモネードの作り方、教えて欲しくて」
「……」
私がそういうと、矢吹さんはガシガシと後頭部をかいてから、振り返って玄関からリビングへと続く廊下を歩き出す。
「……上がって」
静かな声で、彼はこちらを見ないままそういった。
「はい、材料いうから書いて」
カウンターチェアーに私を座らせた矢吹さんは、リビングにあるテレビの横にあったメモ帳とペンをとってきて私の前に置いた。
「はいっ」
慌ててペンを持つ。
「レモン4個、砂糖120g、はちみつ大さじ4〜5」
「はいっ」
「スライスしたレモンと砂糖とはちみつを3回に分けて、層になるように瓶の中に入れていく。レモン、砂糖、はちみつの順番で交互に」
「はい」
一語一句聞き逃すまいと耳をしっかり矢吹さんの声へと向ける。