制服レモネード
「っていうか、飲みに来ればいいじゃん。わざわざ作らなくてもシロップあるんだし。この間言わなかった?」
「えっと、両親にも飲んでほしいので」
『矢吹さんと関わるための口実』なんて、口が裂けても言えない。
「優しいね、梓葉は。ふつう、梓葉くらいの歳の子って『親うぜー』とか思うもんじゃないの」
「俺思ってたし」と言いながら、キッチンの後ろにある棚を開けた矢吹さん。
後ろ姿だけでも、ガッチリしてて大人の男性の背中って感じで、バクバクと胸が鳴って落ち着かない。
高校生の頃の矢吹さんって、どんなだったんだろうなんて思って。
「両親仕事で忙しいので、うるさいって感じたことはないですね……」
「じゃあ、寂しいなーとかは?」
そう言いながら、グラスとレモンシロップの入った瓶を取り出している矢吹さん。
また、作ってくれるんだ。
そのことに嬉しくなって緩みそうになる口元を必死に抑える。
「んー、思ってた時期もありましたけど……」
「今は思わないんだ?」
「はい。2人を見てたら、ちゃんと愛されてるって実感できるので。忙しいのに、朝はちゃんと早く起きて朝ごはんや弁当を準備してくれるし、どんなに少しの時間でも学校行事には顔出そうとしてくれるし」
「……そう」
「矢吹さんは?ご両親とは会いますか?」
「……」
私がそう質問した時、シロップをすくうスプーンを持つ彼の手が一瞬止まった。
聞いちゃ、まずかったかな、と思っていると、矢吹さんがゆっくり口を開いた。