制服レモネード
「あっ」

っ?!

声がして顔を上げると、階段から降りてきた矢吹さんがこちらを驚いて見ていた。

「あっ、えっと」

喧嘩の後にこんなところで会うなんて。
普段はなかなかこうやって見れないのに。

「おかえり」

あんなこと言っちゃったのに避けずに挨拶してくれるところとか、やっぱり好きだななんて思っちゃうよ。

「っ、ただいまです。……あれ、矢吹さんどこか行かれるんですか?」

彼の足元にふと目をやると、キャリーバッグが一つ置いてあった。

「あぁ。出張」

「えっ?!」

しゅ、出張?!
そんなのあるの?!
いや、そりゃ社会人、働いていればそんなこともあるよね。

でも、あまりも唐突で。

「そんな……どれくらいなんですか?」

「1週間かな」

「1週間?!」

「前もそれくらいだった」

前……。そうか。矢吹さんが引っ越してきてもう1年くらい経つんだ。今までだって、出張なんてザラにあったはずのに。

好きだって思ったら、こんなに違うんだ。

喧嘩して気まずいって思っていたのに。

1週間、このマンションに矢吹さんがいないって思うだけで、気分が沈んじゃう。

「何。そんなに飲めないのが嫌?帰ったらまた好きなだけ飲ませてやるし」

「っ……」

レモネードが飲めないのもそりゃ悲しいけど。
『矢吹さんの顔が見られないっていうのが1番』

「じゃーね。テスト、頑張って」

矢吹さんは優しくそう言うと、私の頭をポンポンとしてから、マンションを後にした。
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