制服レモネード
「……や、矢吹さん?!」

「どうしたよ。そんなところに突っ立って」

1週間ぶりの矢吹さん。
私の顔を優しい表情で伺う矢吹さん。

恋っておかしいな。
顔が見れただけで、好きな人が私を見ているってだけで、泣きそうになるんだから。

「お、おかえりなさい!矢吹さんっ」

私がそういうと、矢吹さんは少し驚いた顔をしてそのあとすぐに「ハハッ」と軽く笑った。

私と、あんな風に言い合ったことなんてなかったみたいに。

夢だったんじゃないかって疑っちゃうほど、いつも通りで。

「ただいま。何、俺の帰り待ってたの?」

矢吹さんはドアの鍵を開けて、キャリーバッグの取っ手を持ちながら話す。

「……はい、ずっと待ってました」

キャリーバッグを玄関の中に運ぶ、その背中に向かって、小さくそういう。

矢吹さんは「1週間ぶりに、飲む?」と言ってから、私に家に入るよう促した。

重たそうなキャリーバッグを再び持ってスタスタと家の中に入っていく彼を追いかける。

「ソファ、座っといて」

そう言った矢吹さんは、ソファの横にキャリーバッグを置くと、すぐにキッチンへと向かっていく。

ここに座るのは2回目だ。

結衣と濱谷くんと勉強会した時──。
あぁ、そっか、私と矢吹さんが言い合った日だ。

そうだ。今日はそのことをちゃんと謝らなきゃと思って。
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