制服レモネード
「あ、じゃあこの問1の答えは……」

カリカリと私のシャープペンが動く音だけが矢吹さんの部屋に響く。

今の時間は夜の7時半。

放課後、矢吹さんの仕事が終わるまでの間、龍ヶ崎くんとのお勉強をし、そのあと、矢吹さんの家でまたお勉強。

そんな日が3日ほど続いていて、なんだかんだ私も龍ヶ崎くんも順調に勉強を頑張っている。

「えっと…………ひっ!」

文章問題に苦戦していると、隣で静かに私が問題を解くのを見守っていた矢吹さんの顔が、私の首元に近づいた。

少し彼の吐息が首筋に触れてくすぐったくなる。

「や、矢吹さん?」

こんな風に接近してくるなんて、一体どうしたんだろうか。

この3日、これといって矢吹さんとはただただ勉強だけを見てもらっていただけで、

おかわりのレモネードを入れてくれるその姿に見惚れているだけだった。

「……」

「矢吹さん?」

何も言わず、ただ顔を埋めている彼にもう一度声をかけると。

「梓葉、香水つけた?」

「……えっ?」

顔を離してこちらを見つめてくる矢吹さんがあまりにもまっすぐ私の瞳を見て離さないので急に恥ずかしくなって顔を晒す。

「いや、つけたこと、ないですが」

「……」

突然の質問に戸惑いながらも正直に答えたけど、矢吹さんはまだ納得いってないような顔をしながら後頭部をガシガシとかいて、その手を戻した。

「男のにおいがする」

っ?!

『男のにおい』

そのセリフに目を見開く。
私はまだまだ全然矢吹さん一筋だ。
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