制服レモネード

とりあえずまずは飲み物を買うためにと、矢吹さんが近くのコンビニを目指して車を走らせる。

「矢吹さんは、よく運転するんですか?」

「あぁ、仕事で時々するかな。免許取り立ての頃は友達とよくドライブしてたよ。最近は……んまぁ、ね」

「あ、仕事で……」

後半濁されたのは、わかってるよねってことだと思う。私がこうやって矢吹さんと話す前までは、矢吹さんはいつも違う女の人を連れ込んでいた。

そういう人たちと出かけるために運転してたってことだよね。

わかってたはずなのに、私が今座ってるこの助手席に別の女の人も座ってたんだと思うと胸がズキンとする。

「でもほんと、今日すごい楽しみだったよ」

そんな落ち着いた声が横からしたので、顔を矢吹さんの方へと向ける。

横顔がすごく綺麗で、やっぱり好きだなって思う。

私のわがままで運転しないといけなくなったのに、楽しみだったなんて言われたら、舞い上がってしまう。

それが矢吹さんの本心だったらすごく嬉しいけど。ほんとのところは──。

「本当だからね」

「……っ、」

信号が赤になりブレーキを踏んだタイミングで、矢吹さんがこちらの方へ顔を向けて、バチッと目が合う。

まるで私の心が読めるみたいに、まっすぐそういう矢吹さんに、

「……はいっ、私もです!」

私は今できる目一杯の笑顔で答えた。

矢吹さんが私を女としてみてくれないとか、過去にどれくらいの女の人とこういうデートを重ねてきたとか、考えたらきりがない。

今、私の隣にいる彼は、ちゃんと、私と話してくれている、私をみてくれている。

今日はマイナスなことをいちいち引きずったりしないで、思い切り楽しむんだ。
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