【Amazonベストセラー入りしました】偽花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとハラハラしていたらイケメン王が溺愛してくるんですが?
*****

「ほんとうに木が少ないわね⋯⋯」
 馬車の窓から顔を出して、フウルはまわりを見回した。乾いた風が吹いてきて金色の巻毛がふわりと揺れる。
 嫁ぐ日とは思えないほど質素な黒いドレス姿だ。
「地面もカラカラね」
 目の前に広がっている景色は赤茶色の土ばかり。ラドリア国は噂どおり不毛の土地らしい。
 馬車の横で馬を進める数人の従者たちは、フウルが話しかけても無表情のまま口を閉じている。
 十日あまりの旅のあいだ、従者たちはずっとフウルに対してよそよそしい態度だった。
 ——わたくしはみんなにものすごく嫌われているのね⋯⋯。
 あらためてそう強く感じたほどだ。
 ——国民を不幸にする『ギフト』を持ったわたくしなんか、生きている価値がないのかもしれないわ⋯⋯。
 心の中で大きなため息をついたとき、道の向こうから六頭だての豪華な白い馬車が現れた。
 馬車のまわりには馬に乗った従者たちがいる。どうやらフウルを迎えにきた一団のようだ。
 先頭の馬には赤毛の小柄な女性が乗っていた。パッと笑顔になって馬を走らせてくる。地面が乾いているので馬の足元の赤土がふわっと舞い上がった。
「お待ち申し上げておりました、お日様王女さま! わたくしはミケールと申します。今日より王女さまのお世話係を受けたまわりました。どうぞお見知りおきを——」
 まだかなり若くてまるで少女のような雰囲気だ。そばかすが浮かんだふっくらとした頬でニコニコと笑っている。可愛らしく膝を折って礼をした。
「で、出迎えに感謝します⋯⋯」
 お日様王女——と呼ばれて心臓が飛び出しそうになった。
 ——どうしよう、わたくしのことをヘンリエッタだと思っているんだわ。わたくしは偽者の雨降り王女なのに⋯⋯。この国の人たちはわたくしが来ることで木々が生え農作物が豊かに実ることを期待しているのね。どうしよう⋯⋯。
< 5 / 45 >

この作品をシェア

pagetop