Sweet Lovers
「琥珀、チョコとか溶けるから時間厳守でね!」

「了解」

音大の入学前の課題で手一杯なので、こんなふうにストリートピアノの前に座るのは久しぶりだ。

適当に最近のアニメの主題歌や、バレンタインらしく、何年か前に流行ったラブソング。

2曲演奏すると、もう持ち時間はあと少しだった。

ふと、ピアノの側に糊で画用紙に貼り付けられた楽譜が置かれていた。

誰かの忘れ物だろうか。

名前を聞けば誰もが知る音楽家の曲だったので、弾いてみる。
ピアノの発表会でよく選ばれる曲だ。

演奏を終えて椅子から立ち上がると、小さな女の子と目があった。
幼稚園の年長さんくらいだろうか。
たどたどしく拍手をしていたこの目線は、ピアノの上の楽譜に向いていた。

「お、君のかな、この楽譜。
はい。
大事なものは、忘れないようにしなくちゃダメだよ?」

「おねえちゃん、ありがとー!」

そう言ってトタトタと走っていく女の子の側には、その子の母親が何度も私に向かって頭を下げていた。

私も会釈をした後、手を振るその子に、軽く手を振り返した。

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