【書籍化&コミカライズ決定】悪役令嬢に転生した母は子育て改革をいたします~結婚はうんざりなので王太子殿下は聖女様に差し上げますね~
護衛なだけあって動きが速いのは当然なのだけど、それだけじゃない身のこなしに見えるのは気のせいかしら…………無言で頷き、ゼフの肩越しに前方を覗いてみると、小さな女の子が大きな男に蹴飛ばされていた。
見た感じでは三歳くらいに見える。あんな小さな子供を思い切り蹴り飛ばしたという事?
ふつふつと怒りが湧いてきたわ…………自分よりもはるかに弱い者にあんな事が出来るなんて……許せない。それに倒れたまま動かない様子を見ると、放っておいたら死んでしまう………………
私はゼフに言われていたにも関わらず、その男のところまでずんずん歩いて行った。
「お嬢様!」
二人の呼ぶ声が聞こえるけど、事態は一刻を争うのよ!早くしないとあの女の子は助からない…………
倒れて動かなくなった女の子の胸ぐらを両手で持ち上げ、男はまくし立てた。
「お前、今俺の食べ物を盗んだな!!」
女の子が倒れていたと思われる場所には小さな木のお皿が落ちていて、そこには豆が幾つか落ちているだけだった。盗んだも何も、皿には豆しかないじゃない……完全に言いがかりね。この子が物乞いだからって言いがかりを付けて憂さ晴らしをしているんだわ…………
「ちょっと待ちなさい!」
「…………あ?」いかにも"何だお前は"と言いたそうな顔で振り向いた男の顔には、明らかな怒りが滲んでいる。
「その女の子を――」と言いかけたところで、マリーは私の口を塞いだ。