【書籍化&コミカライズ決定】悪役令嬢に転生した母は子育て改革をいたします~結婚はうんざりなので王太子殿下は聖女様に差し上げますね~
「ヴィルが?それは……忙しくなりそう、ですわね」
私は自然と視線がテーブルに沈んでしまう。やっぱりこの世界は彼と聖女様の世界なのかもしれない。
当初の予定通り、聖女様のルートに戻すべきなんだろうか……どうしてそこで迷いが生じているんだろう。この世界に転生した時は喜んで聖女様と結ばれてくださいって思っていた。
もし彼と聖女様が結ばれるとして、その後の公爵家の行方が不安だから?
マリーやソフィア、お父様や領地の皆、イザベル達…………そして自分の人生すらも失うのが怖いから?
そうね、そうかもしれない。小説の通りに補正されつつある現実に、漠然とした不安が私の胸に渦巻いているのかも――――――
「しばらくは王宮と教会の往復だろうけど、慣れてきたら地方行脚で聖女としての力を使ってもらいたいと思っているから、それにも殿下は同行なさる事になるんじゃないかな」
「王家で保護している、という面目を保つ為にも王族が同行するのが大事ですものね。そうなりますわね」
私は夕食を済ませて自室に戻ると、机に飾ってあるオルゴールのような置物を眺める。
なんだかヴィルが遠い世界に行ってしまうかのような感じがしたわね。
置物から流れる音楽が沁みてくる。建国祭は楽しかったな。こんな日々が続けばいいのにって思ってしまっていた。どう頑張っても私はこの世界から排除されてしまうのかしら…………聖女様とヴィルが一緒にいるところを頭に思い浮かべて、胃の辺りが重くなる。