【書籍化&コミカライズ決定】悪役令嬢に転生した母は子育て改革をいたします~結婚はうんざりなので王太子殿下は聖女様に差し上げますね~
揺れる馬車の中で、何故か私は横向きにヴィルの膝に座らされていた。
これは何事?!
「……………………ヴィル……足に力が入らないのは確かだけど、座る事は出来るのよ」
「分かっている。私がこうしたいんだ」
「でも、これは…………」
さすがに恥ずかしいと言おうとしたら、私の存在を確かめるように強く抱きしめてきた。彼の心臓の音が聴こえてきて、凄くドキドキしているのが伝わってくる。
「子爵が犯人だと分かって、そこでオリビアが失踪したとゼフから連絡が来た時は、本当に…………間に合わなかったらどうしようかと………………」
抱きしめている腕がさらに強くなり、彼が小刻みに震えているのが分かった。
こんなに尊大な人でも心配で震える事があるんだ……私は自分が思っているよりもずっと想われている事を感じて、胸が温かくなる。
あの地下室では魂が冷えていくような事ばかりだった。あんなに冷たい世界に触れたのは初めてで、すっかり私の心も恐怖で凍り付いてしまっていたけど、それを全部融かしてくれたような気がする。
ヴィルの腕の力が緩み、私の片手を握りしめて自身の頬に摺り寄せながら溜息をついている姿が可愛くて、思わず笑ってしまった。
「ふふっ大丈夫よ。私はここにいるじゃない」
「……………………」