目と目を合わせてからはじめましょう
 玄関に置き去りにされたキャリーバックを持って、バスルームだと思って開けたドアはトイレだった。その隣のドアのドアを開けキャリーバックと一緒に入る。下着と着替えを出すとバスルームに入り、シャワーを思いっきり出した。

 頭からシャワーを浴びる。

 どうしてこんなことに?

 夕べの事を一つづつ思い出していく。


 ええ〜〜〜〜 私、あの男を好きって事?

 だから、ああなって、こうなって、あああ〜〜

 熱いシャワーを頭から浴びたまま考える。


 けして後悔しているとかじゃない、ただ、恥ずかしいのだ。

 体の関係が先? 好きの気持ちが先? ちゃんと順番追っていけば、こんな恥ずかしい気持ちにならなかったのでは?

 どんな顔して、雨宮の前に行けばいいのよ。


 出勤用の服に着替え、髪の毛も整え、メイクもきちんとする。これで良し。動揺している事を見せずに、至って普通の行動を心がけよう。

 大きく深呼吸して、リビングに向かうと、寝室からTシャツ姿の雨宮が出てきた。

 「シャワー浴びたか?」

 「はい」

 雨宮から声をかけられた途端、平常心を失い、思わず下を向いてしまった。

 雨宮の手の平が、頭の上に乗った。

 「そんなに緊張するな。俺だって、正直動揺している。でも、夕べ言った事は本当だ。しばらく、ここで暮らせばいい」

 顔を上げると、照れくさそうに雨宮が目を背けた。


 さっきまで、恥ずかしくて仕方なかった気持ちが、ふっと溶けて、嬉しさでいっぱいになった。

 「ありがとう」

 気付いた時には、雨宮の首に手を回してしていた。


 一瞬驚いたようにビクッとなった雨宮の手が、そっと背中に回った。
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