目と目を合わせてからはじめましょう
 そんなこんなで、雨宮との同棲生活が始まってしまった。

 ママは電話で「雨宮さんがいれば安心ね」と、上機嫌で、娘が同棲していることをわかっているのかと疑いたくなる。もしかしたら、SPとして雨宮を雇ったとでも思っているのだろうか?

 雨宮も、両親にきちんと挨拶しておきたいなんて言い出すけど、こんな関係になったと報告するようなもので、何だか躊躇してしまう。


 「今、帰りか?」

 その声に、私の鼓動は高鳴る。私はいつからこんな風になってしまったんだろうか?

 「うん。今日は遅番じゃなかったの?」


 駅からの帰り道、一人の夕食の買い物に、スーパーに入ろうとしたところで掛けられた声に振り向く。多分、雨宮は一度マンションに戻って、GPSで私の居場所を確認したのだろう。

 一緒に暮らして、数日だが雨宮が心配性だと言うことがよくわかった。私の行動をGPSで確認し、防犯ブザーも持っているかと毎朝聞いてくる。まあ、あんな事があった後だし、仕方ないかとも思うが……

 「ああ、急に依頼の変更があったんだ。これから夕飯か?」

 「そうなの。夕食済ませましたか?」

 「いや、まだだ。何か一緒に買って帰るか?」

 「うん」

 雨宮は無口でクールだが、優しい人だ。

 「ハンバーグがいいかな?」

 「俺は、揚げ物だな」

 袋に入ったサラダとドレッシングも一緒にカゴに入れる。

 「後は、明日の朝のパンとスープかな?」

 「そうだな」

 人前でイチャイチャするようなタイプではないが、時々目が合うだけで嬉しくなる。こんな感じがとても好きだ。

 不規則勤務の私達が、一緒にいる時間は限られているのだと、夕べお互いのスケジュールを確認してため息をついた。だから、こうして一緒に歩ける事に嬉しくなってしまう。

 「明日は休みなんだろう?」

 「うん。雨宮さんは朝早いの?」

 雨宮の方へ伺うよに、顔を向けた。

 「いや、、夕方からの勤務。だから……」

 「だから?」

 「だからだ」

 雨宮の顔が、ほんのり赤くなり、早足で歩き出した。

 ええ??
 やだ、まさか?
 夜のお誘い?

 そう思った途端、顔がカーッと熱くなって、早足の雨宮の後を追った。
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