目と目を合わせてからはじめましょう
 大きなガタイと無表情な顔が早足で歩けば、何となく人が避ける。その姿がおかしくて、思わず笑ってしまった。

 「何が、おかしい?」

 怪訝そうに雨宮が振り向く。

 そんな姿も何だかおかしくて、また、笑ってしまった。

 「楽しいだけ」

 少し速度を緩めた雨宮の横に並んで歩いた。

 こんな楽しい時間があるんだと思いながら、マンションのドアを開けた。



 だが、現実はそうは甘くなかった.


 思わず、雨宮と二人で玄関で立ち尽くした。

 「少し、片付けた方がいいよな?」

 止まっていた空気を動かすように、雨宮がボソッと言った。

 さっきまでの浮かれ気分から、一気に現実を見た気がした。

 「そうね……」

 そう答えるしかない。

 言っておくが、ゴミが溜まっているわけではない。洗濯物が溜まっているわけではない。悪臭がするわけでも無い。ただ、片付けが出来ないだけだ。
 お互いに……


 とりあえず買ってきたものを、ダイニングのテーブルの上に置いた。

 「腹減ったよな」

 マンションに戻ったからなのか、雨宮は少しリラックスした表情をしている。

 「食べてからにしましょうか?」

 「そうだな」


 買ってきたものをテーブルに広げる。キッチンで袋のサラダをお皿に盛り付けていると、雨宮が冷蔵庫から、ペットボトルのお茶とグラスを出を用意している。

 食べたかったトマトも切る。そのぐらいは私だってできる。

 「いただきます」

 「いただきます」

 二人で手を合わせた。

 「ああー美味しい」

 「この唐揚げも美味いぞ」

 雨宮が唐揚げを一つ、私のお皿に乗せた。

 「やったー。ありがとう。ハンバーグも美味しいですよ」

 私も雨宮のお皿にハンバーグを一切れ乗せた。

 なんやかんや話をしながら、夕食を食べ終わる。

 「デザートも食べちゃおう」

 買ってきたプリンに手を伸ばす。

 「俺も食べる」

 お腹がいっぱいになって、何だかまったりしてくる。


 「汗かいたから風呂入りたい。俺、入れてくるよ」

 「ありがとうございます」

 そう言って、私も食事の後片付けをする。ゴミをゴミ袋に入れ、たった二枚のお皿を洗う。そのくらいは私だって出来る。
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