目と目を合わせてからはじめましょう
 オートロックを開けると、見覚えるのある顔が二つ並んでいた。間違いなく、ママとパパだ。

 「こんにちは」

 ママの明るい陽気な声が響いた。元気はいいが、会社で長年秘書をやっているだけあって、品がある事は認めざる負えない。でも、この母だって家ではダラダラ、ソファーに寝転び、テレビ見て大笑いしている。

 「突然、悪かったね」

 年齢にしては、若く見えるし、正直かっこいいパパがニコリと笑って言った。だが、両手には重そうな買い物バッグを下げている。

 「とにかく、お入りください」

 雨宮が、二人を招き入れた。


 「その荷物なに?」

 靴を脱ぐために、玄関に荷物を置いたパパに聞いてみた。

 「ママが、二人の食生活を気にして、差し入れだとさ」

 「あー ありがとう……」

 お礼を言ったものの、保冷バックの中からチリと除いた肉の塊に嫌な予感がする。


 「コーヒーでいいですか?」

 雨宮が珍しく緊張した表情で、パパとママをソファーに促した。ただでさえ無表情なのに、緊張が加わると正直怖い。

 「もう、突然でびっくりしたよ」

 ママに向かって、じろっと睨んで言った。


 「だって警察署で無理矢理に咲夜のことを、雨宮さんにお願いしたままだったじゃない。きちんとお礼しなければ失礼でしょ。雨宮さん、本当にありがとうございました。おかげで安心して旅行が出来ました」

 「本当に、すまなかったね」

 パパとママが頭を下げる。


 本当だよ、娘が危険な目に遭ったって言うのに、いくらSPとはいえ、男の人に預けて旅行にいくなんてどうかと思う。でも、お陰で、いろいろ進展があったからいいのだけど。色々思い出し、熱くなった顔をパタパタと手で仰いだ。

そんな私とは反対に、コーヒーをセットしていた雨宮は慌ててパパとママに頭を下げた。

 「いえ、ご挨拶に伺わなければならないのは私の方ですから」

 「挨拶って?」

 ママが、不思議そうに首を傾げて雨宮を見る。

 すると、雨宮がソファーに座るパパとママの前に正座してしまった。


 「大切な娘さんをお預かりしておきながら大変申し訳ありません。咲夜さんとの交際を認めて頂きたく思います」

 雨宮が頭を下げるので、慌てて私も横に並んで頭を下げた。

 ああ、言っちゃったよ。


 「あら、そんなこと。当然オッケーよ」

 ママは、何でもない事のようにニコッと笑った。

 「雨宮君なら、大歓迎だよ」

 パパも、荷物を持っていた腕を痛そうに回しながら言った。こんなに、軽くていいものなの?


 「だけど、咲夜でいいの? 私が言うのもなんだけど、この子、何も出来ないですよ」

 「な、何言ってるのよ。私だって一人暮らししていたのよ。少しは出来ることもあるよ」

 「出来ないのは、お互い様です。協力してやっていきますので、ご心配なさらないでください」

 雨宮さん、それは、私が出来ないこと認めていますよね……

 複雑な思いで、雨宮をジローっと見た。


 「さあ、そうと決まれば、始めましょう」

 ママは、笑顔でスッと立ち上がった。

 えっ? 何事?
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