目と目を合わせてからはじめましょう
 雨宮の出張から三日ほど経った。

 なんとなくつけたテレビのニュースで、雨宮が警護についている国際的な会議の様子が報道されていた。

 ほんの一瞬だが、黒いスーツ姿の男がテレビの画面に映った、間違いない雨宮だ。目を凝らしてテレビの画面を見る。内容や政治家の姿より、政治家の横に映る黒いスーツを探す。もー、もうちょっと画面引いてくれないかな? 政治家の姿の後ろに雨宮がいるのがわかる。咄嗟に、手で画面を動かしてみるが動くわけがない。


 スマホ開いて、ニュースを検索する。端から動画をみると、時々雨宮の姿が映る時がある。やっぱりかっこいいな。相変わらず無表情で怖いけどね。

 一人だと、つい惣菜や簡単なもので夕食を済ませてしまう。ズーパーで買ったピザを片手に、何度も動画を見る。うん? この人、雨宮の近くによくいるな。雨宮と同じように黒いスーツだ。そりゃSPは大勢いる。同じ、担当とかなら近くにいるのは当たり前だ。だけど、女性のSPだ。しかも美人。こんな事を気にするなんて、危ない任務についている雨宮に申し訳ない。わかっているけど、これ以上、動画は見ない方がいいような気がした。

 スマホを閉じると、二つ目のピザを口に入れた。

 もう一度、スマホを手にしてメッセジーの画面を開いた。

 『お疲れ様。ニュースに黒スーツ雨宮、映っていましたよ』

 『相変わらず、怖い顔してましたよ。悪い奴も怖気付くね』

 出張中、メッセージのやり取りはあったが、いつ見るかわからないし返事もいつ来るかわからない。もっと甘い言葉を送るべきなのかもしれないが、つい、かまうような言葉になってしまう。多分、寂しくなってしまったからだろう。それに、ただでさえ心配性の雨宮に心配をかけたくない。

 だが、既読はすぐに着いた。と同時に、スマホが震えた。

 スマホの画面に雨宮の名が表示された。思ってもいなかった電話に、慌てて飛びついた。


 「もしもし」

 「咲夜? 家にいるか?」

 「うん。夕食中だよ」

 「そうか。変わった事ないか?」

 「うん。大丈夫。それより、テレビに映ってたよ。相変わらず無愛想だね」

 「普通だよ。この状況で愛想振り撒いてどうするんだ?」

 相変わらず愛想のない話し方だが、雨宮の声に、ホッとすると同時に嬉しくもなる。


 「そうね。でも、人から頼られる仕事だものね。カッコよかっったよ」

 「うっ…… 恥ずかしいこと言うな。それほど映ってなかっただろ。なるべく早く帰るようにする」

 「うん。でも、くれぐれも気をつけてね」

 「ああ…… 咲夜もあまり一人で歩くなよ。戸締りの確認を忘れるな、それから……」

 雨宮の声と、別の声が重なった。


「太一、打ち合わせ始まるわよ」

 えっ? 女の人の声。


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