目と目を合わせてからはじめましょう
 「じゃあ、咲夜さん、私の部屋でコーヒーでも飲んで待つ事にしようかね」

 「あっ。はい、ありがとうございます」


 社長室とドアにプレートのある部屋に促された。

 思っていた社長室とは違って、それほど広いわけではないが、冷蔵庫や電子レンジまである。でも、観葉植物もあり清潔感もあって、なんだか癒される部屋だ。

 「素敵なお部屋ですね」

 「ありがとう。コーヒー淹れるから、ソファーにかけて」

 私は、遠慮なくソファーに座った。コーヒーのいい香りがする。雨宮も、よく家ではコーヒーを淹れてくれる。でも、部屋が整理されているところを見ると、雨宮は父に似なかったようだ。

 父は、紙コップに入れられたコーヒーを持ってテーブルに置いた。

 「秘書が、帰ってしまったから済まないね。お砂糖とミルクは?」

 「ありがとうございます。ブラックで大丈夫です」

 父は、コクリと頷くとそのまま向き合うようにソファーに座った。そして、片手を差し出し、私に飲むように勧めた。

 「頂きます」

 温かいコーヒーを口にする。今日も一日、立ちっぱなしだったので、座れた事と喉に染み渡るコーヒーに、ホッとため息ま漏れてしまった。

 「仕事帰りかね? 確か、美容師さんだっと思ったが」

 「はい。あの、どうして私の事がお分かりになったのでしょうか?」

 「ああ。お祖父んの警護の時に、関係者のお顔を拝見させてもらったからね、覚えていたんだよ」

 「そうでしたか。その節はお世話になりました。ただ、雨宮さんとの事は……」


 「ああ。あいつは何も言わないよ。咲夜ちゃんのお祖父さんが、嬉しそうに電話してきたよ。もちろん、私も嬉しい」

 「ああ。お祖父様でしたか…… 雨宮さんにはご迷惑をおかけしてばかりで、私は力不足で申し訳ないと思ってます」

 「咲夜さんしか、太一の相手は出来んよ。それに、最近太一は変わったよ。力強くもなったし、表情が柔らかくなった。こういう仕事をしているせいか、人を見る目は自信がある」

 「ありがとうございます。力不足ですが、雨宮さんの力になりたいと思います」

 「そんなに気負わなくていい。きっと、咲夜さんといるだけて、気持ちが安らぐんじゃないかな? 不器用な奴だけど、よろしく頼むよ」

 「はい」

 そんな事を言ってもらえるほどの事はしてないが、ちょっと嬉しくなった。

 コンコン
 ドアがノックされた。
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