目と目を合わせてからはじめましょう
 「ああ、もちろんだ。どこか食べにでも行くか?」

 「うん。いいね」

 「仕事、何時頃終わるんだ?」

 「あっ。ねえ、髪長くなってきたんじゃない?」

 「ああ。そろそろ切らなきゃだと思ってる」

 「私に切らせてくれない?」

 「いいのか?」

 「もちろんだよ。明日、六時なら大丈夫だから」

 「なんだか緊張するな。髪の色とか、目立つ髪型はダメだからな」

 「うん。カットするだけだから、まかせておいて」

 咲夜の顔がぱあーっと明るくなった。ちょっと照れ臭い気もするが、昨夜が喜んでくれるならいいかと思った。


 「早く片付けしてしまおう」

 「どうして? そんなに慌てなくてもいいよ」

 「咲夜は明日仕事だろ? 時間がないぞ」

 俺は、テーブルの上の食器を咲夜の分も一緒にキッチンへと運んだ。

 「どうして?」

 「風呂、一緒に入るか?」

 一瞬、ポカーンと俺の顔を見ていた咲夜の顔が、みるみるうちに赤くなった。可愛いいんだよな。この時俺は、彼女を可愛いと思うのは俺だけだと思っていた。

 「入るわけないじゃない」

 「どうしてだ?」

 「はあ? 普通わかるでしょ?」


 俺は、洗い物を済ませると、テーブルを拭いている彼女の元に向かった。そのまま、彼女の腰に手を伸ばすと、グッと持ち上げて担いだ。

 「キャー、何するのよ、下ろして!」

 「風呂」

 「ええ〜〜、断ったじゃない」

 耳元でギャーギャー騒ぐ彼女に何も答えず、バスルームに向かった。彼女がバタバタしたところで、ホールドした俺の腕が動くわけなどない。
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