目と目を合わせてからはじめましょう
 夕べは散々抱きつくし、翌朝はスッキリしている俺とは反対に、彼女はジトーっと俺を睨み、ベッドから這うように洗面台へと向かった。内心、すまないとは思うが、仕方ない。


 「気をつけてな。六時に店に行くから」

 ぎこちなく歩く彼女を、玄関まで見送る。

 「うん。 待っているからね」

 じろりと俺を睨む咲夜の額に、チュッとキスした。

 「変態!」

 そう言った彼女が、チュッと俺の唇にキスを仕返してきた。

 うわーっ。 身体中の熱が、顔に集まってきた。

 「咲夜、今日は仕事休めよ」

 思わず、口から出てしまった。

 「無理に決まってるでしょ!」

 彼女は、玄関のドアを開けると、手を振って行ってしまった。俺は、しばらく閉まった玄関のドアを見つめた。


 とりあえず、洗濯物でもと思い取り掛かるが、つまらない。要領よくはないが、昨夜と二人で行う家の事はやっぱり楽しい。

 溜まっていた書類整理をしながら、寂しく半日を過ごした。今まで、一人でいることに、なんとも思わなかったのに……
 腹も減ってきて、時計を見ると昼を過ぎていた。

 テーブルの上のスマホが震えた音に、手を伸ばした。昨夜からだと、少し期待したが、スマホの画面は岸川の名だった。

 「もしもし」

 『太一? トレーニングは何時頃になりそう?」

 岸川と約束した事は、すっかり忘れていた。

 咲夜の店に行くことを逆算した。

 「三時頃になるかな」

 「わかった、その頃、私も行くわ」

 「ああ」

 岸川と、トレーニングすることは珍しいことではない。特に気にすることもなく、会社が提携しているスポーツジムへと向かうことにした。
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