目と目を合わせてからはじめましょう
 「大丈夫か? ハードなスケジュールだったから、疲れが出たんだろ? 車で来ているから、送って行くよ」

 「でも、約束があるんでしょ?」

 「遅れると連絡するから、大丈夫だ」

 俺は、岸川を支えながら駐車場に向かった。

 体調管理に抜かりない岸川が、体調崩すなど珍しい。少ない女性SPの一人だが、長い出張の体制も考えた方がいいのかと、頭の中を巡らせた。


 スマホを手にして、少し遅れることを咲夜に伝える。

 「次の勤務は明後日だよな? 体調悪ければ、しっかり休めよ」

 「ええ。大丈夫。自分の体は、自分が一番よくわかってる」

 「そうだな」


 「太一は、出張明けなのに元気よね?」

 「そうか?」

 まさか、昨夜発散したからだと言うわけにもいかない。たしかに、出張明けなのに体が軽いし、一言で言えば元気だ。咲夜のおかげだな。


 岸川のマンションに着くと、すでに六時を回っていた。

 「ゆっくり休めよ」

 車から降りる岸川に声をかけたが、何か言いたげな表情で俺に目を向けた。

 「送ってくれてありがとう。お茶でもどう?」

 「いや。具合悪いんだから、気にするな」

 「そう…… お疲れ様」

 岸川が、車のドアを静かに閉めた。


 ここから、十五分もあれば店には着くが、カットは無理しなくていいこと含めて、咲夜にメッセージを送った。


 咲夜の勤める美容室の駐車場に車を停めると、急いで車から降りて店のドアを開けた。

 白とブルーで統一された爽やかなイメージの店の奥から、ずっと会いたいと思っていた顔が覗いた。

 「いらっしゃいませ」

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