目と目を合わせてからはじめましょう
 「池山と申します。お客様に失礼である事は重々承知の上でお聞きします。咲夜ちゃんとはどういったご関係でしょうか?」

 男は、手を止めると俺の方へ目を向けたが、丁寧な言葉と真剣な表情に嫌な予感しかしない。咲夜ちゃんだと! 本当に、失礼だ。

 「あなたに言う必要がありますか?」

 「はい」

 池山は、あっさりと返してきた。

 「特別な女性です」

 俺は、迷わずはっきりと言った。


 池山はしばらく黙って下を向いていたが、覚悟を決めたかのように顔を上げた。

 「はっきり申しあげておきます。僕にとっても咲夜ちゃんは特別です。あなたは、睨みを聞かせれば、大抵の男は逃げていくとお思いでしょう? でも、僕は違いますから。失礼を承知の上で申し上げておきます」

 いくら、恋愛に鈍感な俺でも、池山が宣戦布告してきたことぐらいわかる。確かに、沖縄でもそうだったが、咲夜に近づく男は、俺が少し睨めば逃げて行った。これからも、それでいいと思っていた。


 「それでも、咲夜は俺の彼女ですから」

 池山がなんとお言おうが、咲夜と俺の関係が変わるわけではない。池山の顔は明らかに険しくなり、軽く頭を下げて去って行くのと同時に咲夜が戻ってきた。


 「お待たせしました」

 「待ったよ」

 ため息と同時に言葉が漏れてしまった。

 「もう。そんなに待たせてないじゃない」

 咲夜は、少し睨みながら、ドライヤーを手にして俺の髪に触れた。


 「いかがでしょうか?」

 鏡に映る俺の後ろで、少し不安気に咲夜が微笑んで言った。

 たいして髪型など変えた事がなかったが、鏡に映る自分の姿がいつも違って見えた。悪くない。

「なかなかいいよ。流石だな」

 俺がそういう言ういうと、咲夜はほっとしたように笑顔を見せた。


 だが、仕事とはいえ咲夜に好意を持っている男が近くにいると思うと、穏やかではない。それに、咲夜は全く警戒していないだろう。



 駐車場に停めた車の中で待っていると、しばらくて咲夜が車の窓をトントンと叩いた。

 「ごめんね。待たせちゃった?」

 咲夜が車のドアを開けて言った。

 「いや。お疲れ様」

 咲夜が助手席に座った。

 「あれ?」

 「どうした?」
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