目と目を合わせてからはじめましょう
 「あっ。えーっと、車に誰か乗ったのかなって?」

 珍しく咲夜が、奥歯に物挟まったような言い方をするのが気になった。

 「ああ、岸川がな」

 「えっ? 岸川さん?」

 「ジムで具合が悪くなって、家まで送って行った。だから、遅くなった。悪かったな」

 「ううん。岸川さん大丈夫だったの?」

 「多分、疲れが溜まったんだろ? それにしても、よく分かったな」

 「シートの位置かな? それに、ちょっといい香りがしたから……」

 「そうか? 咲夜の方が、ずっといい匂いがするけどな」

 「そういう事じやない!」

 咲夜の顔が、明らかに曇っている。

 何故だ?


 「何を食べに行くか?」

 それでも、いつものように咲夜に問いかける。

 「えっ。あ、うん」

 何か考えごとでもしていた返事だ。

 何かおかしい。


 そして、俺の頭の中もおかしい。さっきの池山という男がチラついているのだ。

 「出張も終わってお疲れ様ってことで、焼肉でも行く?」

 いつもの咲夜に戻った明るい声が助手席から聞こえてきて、今度は俺が考え事をしていたようだ。

 「おお、いいなあ。知っている美味しい店があるから、そこでいいか?」

 「うん。楽しみ」

 どこか、無理に明るくしているような気がする。俺も、無理に気持ちを誤魔化している気がする。

 俺達に、何が起きているんだ……
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