目と目を合わせてからはじめましょう
溢れてしまう思い
 〜市川咲夜〜

 ちょっと緊張するけど、すごくワクワクしている。雨宮さんが、美容室にくる。気に入ってもらえるカットができるといいけど。

 そろそろ店に来るころだと準備を始めていると、ポケットのスマホが震えた。休憩室にスッと入り確認すると、少し遅れるとのメッセージだった。何かあったのかな?

 「咲夜ちゃん、この後、カットのお客さん入っているんだね」

 「はい。あっ。個人的なお客様なので、先に上がって頂いて大丈夫です」

 「えっ? お友達? もしかして、男の人とか?」

 池山先輩が、いつもと変わらない穏やかな笑みで聞いてきた。

 「えへっ」

 私は、緩む顔に無理やり力を入れた。

 「えっ? 本当に?」

 池山先輩の顔から、笑みが消えた。どうしたんだろ?



 二十分ほど遅れて、雨宮が店のドアを開けた。多分、急いで来たのだ思うが、相変わらず表情に出さず冷静だ。

 私は、嬉しさのあまり顔が緩みっぱなしだ。雨宮の髪に触れる。好きな人の髪に触れることが、こんなに幸せだとは思わなかった。


 無事にカットも終わり、多分だけど雨宮さんも気に入ってくれたんじゃないかと思う。

 片付けを済ませ、店の裏口のドアに手をかけた。

 「咲夜ちゃん」

 店のドアを開けると同時に、池山に声をかけられた。

 「はい」

 「あのさ。今度、一緒に食事でもどうかな?」

 「食事ですか? いいですね。お疲れ様でした」

 私は、池山先輩に笑顔を向けて、ぺこりと頭を下げた。そろそろ、皆んなで食事する時期だしね。そんな、程度だった。それより、車で待つ雨宮の事の方がが気になる。


 駐車場に止まっている車の運転席に雨宮の姿が見える。ガラス窓を、軽くノックして、雨宮の顔を確認してから助手席のドアを開けた。

 「ごめんね、待たせちゃった」

 「いや。お疲れ様」

 美容室にいた時より、ちょっと緩んだ雨宮の顔になんだか嬉しくなる。

 いつものように、助手席に乗り込んだ。

 「あれ?」

 何か違和感がある。思わず口に出てしまった。
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