目と目を合わせてからはじめましょう
 「どうした?」

 「あっ。えーっと、車に誰か乗ったのかなって?」

 言ってしまった後に、すごく後悔した。そんな事、いちいち聞く女なんて、いやらしいよね?

 「ああ、岸川がな」

 雨宮は、表情一つ変えずに、なんでもない事のように言った。

 「えっ? 岸川さん?」

 岸川さんが乗ったんだ。さっきまでの浮きだった楽しい気持ちが、大きく沈んだ気がした。


 「ジムで具合が悪くなって、家まで送って行った。だから、遅くなった。悪かったな」

 「ううん。岸川さん大丈夫だったの?」

 具合悪いなら仕方ない。それだけの事なんだからと自分に言い聞かせる。

 「多分、疲れが溜まったんだろ? それにしても、よく分かったな」

 「シートの位置かな? それに、ちょっといい香りがしたから……」

 ああ、面倒臭い女だろ思われちゃうよ。でも、女性が助手席に乗ったと思うだけで、気持ちがざわつく。

 「そうか? 咲夜の方が、ずっといい匂いがするけどな」

 「そういう事じやない!」

 きつい口調になったのが自分でもわかる。ダメだこんなんじゃ。気持ちと頭を整理しなければ、窓の外に目を向けて小さく深呼吸をした。


 「何を食べに行くか?」

 そんな私にも、いつもと変わらない口調で、雨宮が声をかけてくれた。

 気持ちを切り替えよう。

 「出張も終わってお疲れ様ってことで、焼肉でも行く?」

 あえて、明るく口にしてみた。


 あれ? 今度は雨宮の反応が悪い。怒らせちゃったかな?


 「おお、いいなあ。美味い店を知っているから、そこでいいか?」

 「うん。楽しみ」

 いつも通り楽しい会話のはずなのに、何だか違和感がある。

 私達どうしちゃったんだろ?
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