目と目を合わせてからはじめましょう
 なんとなくモヤモヤしたまま数日が過ぎた。やっぱり気になる、岸川さんの存在が……

 「今日は、帰りは何時ごろになるの?」

 「そんなに遅くはならない予定だけど。どうした?」

 「迎えに行ってもいい?」

 「ああ。もちろんだ。飯でも食いに行くか?」

 「ううん。お父様に、この間コーヒー頂いたままだし、何かお礼したいなと思っているんだけど」


 雨宮の、目がチラリと面倒臭そうになる。お父様の事が気になったのは本当の事だが、それだけでなく岸川の事がずっとモヤモヤしていた。

 「そんなのいいよ。また、折を見て紹介するよ。それに、今日は居ないはずだ」

 「そっかあ。それなら、一緒に買い物して帰りたいな」

 「ああ。重いものとかもあるだろ。仕事、終わったら連絡くれればいい」

 「うん」

 雨宮は、見た目は怖いし、決して愛想がいいわけではない。どちらかといえは、感情が表に出ない方だと思う。でも、私の事は心配しすぎるくらい大事に思っていてくれる事は伝わってくる。だけど女性としての自信がないというのか、幼いと思われているんじゃないかと不安なのだ。決して、雨宮を疑っているとかではないのが……

 だから、雨宮の職場に行ってもう一度、岸川に会いたかったのだと思う。雨宮が、自分のものだと確認したいという浅はかな考えだったんだ。


 仕事が終わり雨宮に連絡すると、雨宮も職場に戻るところだと返事が来た。

 雨宮の会社の前にまで行くと、一台の黒い車が駐車場の中に入ってきた。この車、私が襲われた時に、助けに来てくれた車と似ている。運転席を見ると悠矢の姿が目に入った。あー、あの子も頑張っているんだと思うと、ちょっと嬉しい。


 車が停止すると、後部座席のドアが開き雨宮が降りてきた。駆け寄って、声をかけようと走り出すと、反対側の後部座席が開き、黒いパンツの長い足が見えた。嫌な予感がして、スーッと目の前が白くなる。

 降りてきたのは、岸川だった。
< 142 / 148 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop