目と目を合わせてからはじめましょう
 走りかけた足が止まってしまった。仕事で一緒にいることぐらい分かっていると自分に言い聞かせる。

 車から降りた岸川は、すぐに雨宮の横に駆け寄り、何やら話をしている。その様子に近寄りがたいものを感じた。


 「姉ちゃん!」

 不意に声をかけられ、声のする方へ顔を向けた。

 「ああ。悠矢、頑張ってるのね。あんたにしちゃ凄いわ」

 「俺だって、何も考えてないわけじゃないからな」

 「そうだったんだ……」

 本当に、悠矢は何も考えていない子だと思っていたので、改めて成長を感じた。これも、声をかけてくれた雨宮のおかげだと思う。


 「俺に会いにきたのか?」

 「そんなわけないでしょ」

 まだ、岸川と話している雨宮に目を向けた。

 「ああ、雨宮さんを待っていたのか」

 「そうだよ」

 この子は本当に、自分に会いに来たと思ったのだろうか?


 「雨宮さーん」

 悠矢が、大きな声で雨宮に手を振った。

 「ちょっと、話中じゃない。そんな、バカな呼び方しないでよ」

 雨宮に声が届いたようで、こちらに振り向いた。


 気づいてくれて、ほっとしたのも束の間、雨宮に並んで岸川までこちらに向かって歩いてきた。

 「あら、市川君のお知り合いなの?」

 岸川が、悠矢と私を交互に見て言った。

 「俺の姉です」

 「えっ。お姉さん?」

 市川は、驚いたように私を見た。

 「弟が、お世話になってます」

 ペッコリと頭を下げる。

 「そういう事なのね」

 岸川は何を理解したのか知らないが、なんだか余裕の笑みを向けてきた
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