目と目を合わせてからはじめましょう
 雨宮の車で、近くの大型店に向かうことにした。

 「ねえ。仕事の邪魔しちゃったかな?」

 「いや。ちょうど戻るところだったし。忙しければ、ちゃんと言うよ」

 「そうよね」

 やっぱり、雨宮はそういう人間だ。


 「どうした?」

 「別にいいんだけど……」

 どうしよう、同僚の悪口になるような事は言いたくない。

 「何だ?」

 「岸川さんて、美人よね?」

 「ああ。皆言ってるな?」

 「はあー」

 「だから、どうしたんだ?」


 「ううううっ。なんかね! モヤモヤするのよ!」

 「どういう事だ」

 ああー 止まらない。大人なんだから、もっときちんと説明しなけれないけない事は、頭ではわかっているのだけど。

 「あんな美人で、スタイルも良い人と、一緒に仕事していると思うと、気が気じゃないの!」

 「エッ?」

 やばい、こんな事を言ったら、信用できないのかとか怒られちゃうかもしれない。


 「分かってるけど。太一って名前で呼ぶし…… ううううっ」

 どうにもならななくて、泣きそうになる。


 ハンドルを握ったまま、何も言わない雨宮の顔を恐る恐る見た。

 ええっ?

 あの表情の変わらない雨宮の顔が真っ赤になって、しかもニヤニヤしている。

 「どうして、笑てっているのよ?!」

 「いやっ。ごめん。それって、もしかして俗に言うヤキモチってやつか?」

 「そ、そうよ! 悪い!」

 ズバリと言われて、頬を膨らました。
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