目と目を合わせてからはじめましょう
 「やっぱり、買い物は明日でいいだろ。早く帰ろう!」

 「どうして? 怒ってるの?」

 嫌われたかと思うと、思わず小さな声になってしまう。


 「何故、怒るんだ? …… まさか、咲夜に嫉妬してもらえるなんて思っていなかった」

 「はあ?」

 今度は、私が大きなクエッションを雨宮に向けた。雨宮は、赤い顔を隠すように手を当てた。

 「嬉しいんだ……」

 雨宮がぼそっと言った。感情を言葉にする事があまりない雨宮が言うのだから、本当に嬉しいのかもしれないけど……


 「ねえ? 私が言った事分かってる? 怒ってるのよ。私は、嫌な面倒な事言ってるのよ」

 「うん。うん」

 雨宮は、うなずくだけだ。


 「もーーっ、ちゃんと聞いて! 岸川さんは大人の女性の色気が溢れてて、私は……」

 まずい、また泣きそうになる。


 「人と比べてどうする? 確かに岸川は美人かもしれない。だけど、俺が綺麗だと思ったのは咲夜が初めてだ。多分、咲夜以外の女を、綺麗だと思わんじゃないだろうか。感だだけど、俺の感は確実だからな」

 「私が綺麗?」

 「ああ、何度も言ったつもりだが?」

 「そうだったかな?」

 綺麗だと初めて思っただなんて言われて、嬉しくないはずがない。


 「大丈夫だ。帰ったら、わかるように教えてやるよ」

 雨宮は、目の前の信号が赤になると、私の方を向き、素早く、ちゅっと唇にキスをした。


 きゃっーー

 普段、甘い言葉を言わないくせに、不意にこう言うことをされると、胸がキューっとなって、大好きだ!と叫びたくなる。
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