目と目を合わせてからはじめましょう
 岸川が社長室から出てきた。泣き腫らした目である事がわかる。

 「太一来てたの? 怪我はどう?」

 「ああ、もう痛みもない。世話になったな」

 「いいえ」


 「ロスに行くのか?」

 「ええ。やってみようと思う。それに、私もそんなに強くないの。リセットする時間が必要なのよ」

 岸川は、少し寂しそうに、窓の外へ目を向けた。

 「そうか。岸川なら、ロスでもやり熟せるよ」

 「人の事だと思って。でも、頑張るわ。私が居なくなって困るのは、太一の方よ」

 「そうかもしれないな」


 「戻って来いって言われても、戻らないからね」

 そう言った岸川は、涙目で微笑んだ。

 「ああ」


 「太一は、やっぱり変わったわ。私達に消して見せない顔を、彼女の前では見せるもの。悔しいけど、本当に咲夜さんが好きなんだって分かるわ」


 「ああ、何よりも大切だ」

 「全く…… でも、咲夜さん綺麗だし、魅力的な人だわ。しっかり捕まえておかないと、周りが放っておかないわよ。警護課の男達も、病院で咲夜さん見かけて、鼻の下伸ばしてたわよ」

 ズキッ……あいつら!  嫌な不安が過ぎる。

 「誰も近づけない」

 「わあー。怖い顔」


 「岸川も、大変だと思うが、気を助けて行ってこいよ」

 「お幸せにとか、私、言ってやらないから。さようなら、元気で」


 岸川は、この日をを最後にロスへの準備に入った。
















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