目と目を合わせてからはじめましょう
 よく晴れた週末、雨宮の運転する車で向かった先は、雨宮のお母さんの眠る場所だった。

 白い花を備え、手を合わせる


 「母は、俺と親父がまだ警察官だった時、たまたま来ていたイベントで、逃走劇に巻き込まれて俺達の目の前で亡くなったんだ」

 「そんな事が…… 酷すぎる……」

 もう一度、静かに手を合わせた。雨宮の事を思うと、想像もつかない苦しい事件だったと切なくなる。


 「その事件がきっかけで、親父は今の警備会社を立ち上げたんだ。俺も、ロスで研修した後、警護課に加わった。ずっと、あの事件が引っ掛かっていて、目の前で大切な人を失うんじゃないかと思うと、人に気持ちを許すことが出来なかった。でも、咲夜と出会って、大切な人がいるから、自分のことも大事にしなければと思えるようになった。ありがとう」

 雨宮が私へ目を向けた。

 「そんな……」

 雨宮の言葉に胸が熱くなる。


 「ねえ、母さん」

 雨宮が、今度は、墓に語りかけるように話し始めた。

 「市川咲夜さんだ、俺の大切な女性だ。母さんも気に入っただろ?」

 「初めまして、市川咲夜です。太一さんとお付き合いさせて頂いてます」

 私は、ゆっくりと頭を下げた。


 「母さんも知っているよな。美月さんの娘だ。何度か小さい頃会っているだろ?」

 「そうなの? 知らなかった」

 ママは、何も言ってなかった。

 「美月さん、命日には必ず墓参りに来てくれている。俺の事も、気にかけてくれていた」

 「後から、色々な事が分かってくるわね。ママ達も、色々考えて、私達を巡り合わせたのかな」


 「そうかもな。母さん。俺、咲夜と結婚したいと思う」

 雨宮は、表情ひとつ変えず、まるで業務報告でもしているように言った。

 「えええーーー」

 お墓の前だという事も忘れて、大きな叫び声を上げてしまった。
 
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