目と目を合わせてからはじめましょう
 彼女はいったい、この体制で何時間いたのだろうか? もうすでに日は昇っている。俺の記憶では、モニターの画面が、十時四十分を示していた。
 俺は、彼女を下敷きに、数時間も寝てしまったのだ。

起き上がれない彼女の姿に、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「失礼します」

俺は、彼女の体の下に腕を入れて抱え上げた。


ソファーに降ろすが、彼女の体はまるで棒のように固まったまま動かない。

参ったっな。

とりあえず彼女を支えようにして、水を飲ませた。
帰れと言われても、このまま帰るわけには行かない。

そのうち、彼女がもじもじし始めた。

「どちらへ?」

「トイレよ!」

彼女は怒っている。
そりゃそうだ。間に合わなければ大変な事になる。俺は、必死で起きあがろうとする彼女を抱き抱えてトイレに向かった。

「お手伝いできるととは?」

「結構です。出って行って!」

そりゃそうか。 彼女の言葉が冷たく胸に刺さる。

どうしたらいい?

とにかく、早めに関節を解した方がいいだろう。


トイレをすませた彼女を抱えて、もう一度ソファーに座らせると後ろに回り、彼女の腕を持ち上げた。

「痛っつ。あぁっ」

頼む、そんな声上げないでくれ。理性が……


あらゆる角度に、彼女との距離が縮まり、変な感覚になる。つい、ミニスカートから覗く黒いレースに意識が行ってしまう。これは、黒いゴミ袋だと思おう。足ではない、ダンベルだ。そう言い聞かせ彼女の足をゆっくりと持ち上げた。


はあっー、こんな苦しい思いは始めてだ。
彼女も息を切らして横になったままだ。

湯船に疲れは、もう少し楽になるはずだ。風呂の準備をした後、念の為家の周りを確認した。昨夜の人影が気になった。

「お風呂の準備ができましたが、お手伝いしましょうか?」

純粋に言ったつもりなのに。

「変態!」

怒鳴られた。それも凄い目で睨まれた。
そこら辺りの殺し屋より怖い。

でも…でも…
なんか可愛いいな……
何考えているんだ俺は。
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