目と目を合わせてからはじめましょう
 お坊さんの長いお経に、またうっすらと目をあけて遺影をみる。相変わらず歯を見せて笑う大お爺様の顔に吹き出しそうになる。なんとなくだが、いつもより大お爺様の顔が笑っているように見えて、思わずウインクした。

 その時、やはり鋭い視線を感じた。

 その視線がどこからきているのか、そーっと顔をあげてみた。ガタイのいい黒いスーツ姿の男が、後ろの入口に立ちこちらを見ている。なんだか、あまり良い雰囲気でない。確か、さっき母方の祖父湯之原のじーちゃんと一緒に入って来た男だ。

 一緒に座ってお経を唱えていないところを見ると、親戚ではないのだろう。もしくは宗教が違うとか? 思わずチラチラと見ていると、また鋭い視線を向けられる。なんか、普通の人ではない気がしてきた。まさかヤクザとか? 湯之原のじーちゃん何をしでかしたんだろう? 

 でも、視線は感じるのに、目が合う事はない、不思議だ……

「おい、姉ちゃん」

 隣に座る悠太が、肘を突いた。ご焼香の番が回ってきていたようだ。供養に来ていたことを思い出して、慌ててご焼香させて頂く。

「どうせまた、余計な事考えていたんだろう? 大爺さん、相変わらず面白い顔しているよな?」

 悠太が耳元で、話しかけてくる。こんな事を言っているが、悠太は小さな頃から優秀で、海外を飛び回る商社マンだったたが、昨年パパのじーちゃんの経営する湯之原建設に入社した。しかも、パパに似て綺麗好きというか、整理整頓上手。だが、女好き。これもパパに似たのだろう。

「失礼ね。大お爺様の思い出に浸ってただけよ」

「ああ。大爺さん、ねえちゃが可愛い過ぎて、追いかけてたら一緒に池に落ちたよな」

私は横目で、悠太を見た。

 まただ、視線を感じる。なんか、居心地悪いなあ。まあ、こういう場で居心地良いのもおかしいのか。

 長い供養の儀式が終わり、皆で深々と頭を下げてお寺をでる。

「さあ、行きますか!」

 湯之原のじーちゃんの、青空に響き渡る声に、それぞれ頷いて動き出した。

 正直言って、これからがこの法事の本番と言ってもいい。
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