目と目を合わせてからはじめましょう
 ピアノの演奏が終わると、司会者とのトークが始まった。会場から笑いが起こる。私は友梨佳叔母さんのトークは面白くて好きだけど、パパは恥ずかしいと言って見ようとしない。

 盛りあっがっているステージを見ていると、誰かが横に立つ気配を感じた。

 「先日は申し訳ありませんでした」

 いつ間に移動したのか、雨宮が隣に立っていた。

 「いえ。もう、気にしていませんので」

 嘘だけど。

 「家の方に、不審なことなどありませんでしたか?」

 「いえ、特には何も……」

 本当の事だ。セキュリーもしっかりしているし、心配ないと思う。

 雨宮は、ホールチェーンの付いた小さな箱のような物を差し出してきた。

 「これを持っていてください。不審な人物がいたり危険を感じたりしたら、このボタンを押してくだささい。すぐにシステムセンターに警報されるので、警備員が向かいます」

 携帯用の防犯ブザーのようだ。

 「あっ。ありがとうございます。あなたが近づいてきたら、押しますね」

 私は、防犯ブザーを受け取ると、ニコリと微笑んだ。

 無表情のまま彼はチラリと白い視線を向けると、また、どこかへと去っていった。



 「ねえねえ、今のSPの人って、湯之原の家に居たSPの人じゃないの?」

 演奏が終わった、友梨佳叔母さんがステージの袖に戻ってきていた。

 「そう見たいね」

 「なんか、機敏でカッコいいわね」

 「そう? 大きくて無表情で、なんか怖いな」

 嘘じゃない。

 「まあ、好みは人それぞれよね」

 友梨佳叔母さんは、意味あり気に微笑んだ。


 「ねえ、叔母さん。男の人にパンツ見られた事ある?」

 何となくモヤモヤしているものを吐き出したくて言ってしまったが、この質問があっていたのかはわからない。


 「えっ? そりゃ、そういう関係になった人にはねえ。やだ、咲夜ちゃん、何人とか言えないわよ」

 友梨佳叔母さんは、顔を赤めて言うが、そんな事は聞いてない。

 「そいう事じゃなくて」

 「パンツって? 干しているパンツ? 履いてるパンツ?」

 友梨佳叔母さんの表情からして、真剣な質問のようだ。確かに、干してあるか履いているかで、状況はかなり違う。

 「難しい話だから、もういいわ」

 聞いてみたものの、詳しい話なんて出来るはずがない。

 「咲夜ちゃん。パンツは信頼できる人にしか見せちゃダメよ」

 「そんな事。わかっています!」

 だけど、見られちゃったんだからしょうがないじゃない。でも正直、パンツを見られた事は恥ずかしいし悔しい。でも、このモヤモヤの問題はそこなのだろうか?

 慰謝料でも貰えば、落ち着くのかな?

 なんでこんなところで会ってしまうのか? 
 もう二度と会わないと思っていたのに……
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